私は公立病院の産婦人科で助産師として勤務しています。
そして、今までに約800件の分娩に関わり命の誕生に立ち会ってきました。
当たり前の事ですが分娩の経過は一人一人異なります。
病院に到着後すぐに分娩になる人もいれば、3日3晩陣痛に耐えてようやく出産になる人もいます。
このように出産する産婦さんにはそれぞれドラマがあるのですが、私にも忘れられない分娩があります。
それは助産師になって2年目の8月でした。
その日私は日勤勤務だったのですが、その勤務の終わりころ、一人の産婦さんが入院してきました。
その産婦さんは初産婦さんのOさんという方で、破水をして病院にやってきました。
そして、入院の運びになったのですが、その際私が病院のオリエンテーションを担当することになり一通り説明しました。
Oさんは破水をしているものの陣痛は弱く、まだまだ出産までには時間がかかるような状態でした。
ですので、私はOさんに「初めての出産だしゆっくりと進んでいくと思うのでリラックスして過ごしてくださいね」と伝え、夜勤帯のスタッフに申し送りをしてその日は帰りました。
翌日私は夜勤帯の勤務でした。
申し送りを受けた際、やはりOさんは出産には至っていないということでした。
そして、私がその夜勤帯でOさんを受け持つことになりました。
そこで、Oさんのお部屋へ伺いました。
昨日よりも多少緊張感は取れていたものの、立ち会う予定だったご主人さんが仕事のため帰宅したこともあり、Oさんは不安でいっぱいな様子でした。
それに加え、陣痛の痛みで涙を流していました。
時折、陣痛の際には「いつ産まれますか?あと何分?私本当に産めますか?」と叫ぶなどややパニックになっているような姿も見られました。
そのため、私はできるだけ彼女の側に付き添い、呼吸法を一緒に行い腰をさすりました。
次第に彼女は私の声に合わせて呼吸法をするようになり、少しずつ落ち着きを取り戻していきました。
それに合わせるように分娩もゆっくりと進み、結果朝方の4時過ぎに元気な女の子を出産することができました。
その後の経過は非常に順調で母乳も良く出て、予定通り出産後5日目に退院の運びとなりました。
退院の日、私は日勤勤務でしたので、出産に関わらせて頂いたお礼を言うために、Oさんのお部屋へ伺いました。
そしてOさんと少しお話をした後、私は彼女からお手紙をいただき、彼女は赤ちゃんと一緒に退院していきました。
私は帰宅後いただいたお手紙を読んだのですが、そこにはこのように書かれていました。
「夫が仕事でいなくなってしまったあと、私は不安で不安で仕方ありませんでした。それはまるで真っ暗な夜道を歩いているような気分でした。
ですからKさん(私の名前)が来てくれたとき、Kさんの声についていけばきっと大丈夫、大丈夫!だと思いました。
つまりKさんは真っ暗な先に見える光だったのです。
本当にありがとうございました。
私、Kさんがいなければ産めていなかったと思います。
Kさんが取り上げてくれたこの子を大切に大切に育てていきます」
あぁ、そうだったんだと。私は涙がぽろぽろ出ました。
私も必死でしたが、彼女がこのような気持ちで頑張っていたこととは知りませんでした。
私への感謝の言葉が綴られていたこの手紙は、私にとって一生の宝物となっています。そして今でも、この言葉を胸に助産師として頑張っています。
・このエピソードをお寄せいただいた方
性別:女性
年齢:40代
お住まい:京都府京都市
ご職業:助産師
勤務施設:公立病院の産婦人科
エピソードをお寄せいただき、ありがとうございました!