・介護福祉士として、老人ホームに勤務していました。
私は昨年まで都内にある有料老人ホームに勤務していました。
有料老人ホームと言ってもピンからキリまでありますが私の勤めていた所は入居一時金や月々の家賃が高く、いわゆる富裕層の方が多い施設でした。
最初は仕事に慣れずに大変でしたが、1年が経過したあたりから仕事にも慣れ、利用者の方からも名前を覚えられるようになりました。
その施設に96歳になる女性利用者の方が入居されていました。
この方は要介護5の方で、日常生活においてはほぼ全てにおいて介助の必要な方でした。
この方は脳梗塞を患ってからは体が自由に動かなくなってしまい、介護が必要になってから日が長い方でした。
したがって、言い方に難はありますが、介護され慣れてる方でした。
朝の起床時刻になると居室に訪問し、まずはオムツを全て取り替えます。
この時に必ずこの方は「いつもそんな事ばかりさせてすまないね」と言ってくださる方でした。
ところが施設の業務はその方だけではなく、その方のオムツ交換をしている最中にナースコールが鳴ってしまうのは日常茶飯事です。
しかしこの方はいつもナースコールが鳴るたびに「私は待てるから、先にナースコールを鳴らしてる方の所に行ってあげて」と言うのです。
それなりに色んな利用者の方と接してきましたが、このような事を言われる方は珍しいと思います。
緊急性の高いナースコールの場合はついこの利用者の方に甘えて、そちらのナースコールを優先してしまう事もありましたが、戻ってくるとこの方は満面の笑顔で「戻ってきてくれて良かった」と仰るのです。
やはりあぁは言っても不安なのでしょうが、それをその場では表に出さずに職員に対してこう言う事が言える方なのです。
施設で寝たきりになると認知症を発症してしまうケースが多いですが、なぜかこの方は年相応の物忘れ程度にとどまっており、認知症とは診断されていませんでした。
いつ居室に行っても私の名前を忘れる事は決してありませんでした。
・介護福祉士として、うれしさを感じたこと
ある時、この方と戦争の話をした事があります。
この方はやはり壮絶な経験をされたようで、当時を思い出しながら色んな思い出を語ってくださいました。
その後、現在の政治家の話へとシフトして行ったのですが、この方はテレビをよく見ている為、時事問題にとても詳しいのです。
少しの間政治家に対する話を交わした後で退室しようとした時に、不意にこの方に呼び止められました。
「あなた考え方が古いわね」
これです。
39歳の私が96歳の方に考え方が古いと言われたのです。
思わず苦笑いしてしまいましたが、退室してから妙な嬉しさが込み上げてきました。
寝たきりのあの方が認知症を発症しないのは気持ちが若いからではなかろうかと思ったのです。
職員としてではなく、1人の人間として、いや友人としてお会いしたかった方でした。
この方は私が退職する時に泣いてくださいました。
今でも元気にされているのか?時々顔が浮かびます。
・このエピソードをお寄せいただいた方
性別:男性
年齢:30代
お住まい:東京都江戸川区
職種:介護福祉士
施設規模:90人
体験談をお寄せいただき、ありがとうございました!