生活の拠点が、実家から離れており、仕事や学校も忙しく、田舎に帰るのも1年に1度程です。
息子が生まれた頃は、2人のひいおばあちゃんが、ひ孫を取り合うように微笑ましく、あやしてくれていました。
その1人のひいおばあちゃんの話です。
ある日、畑仕事をしていて転んでしまい、骨折入院しました。
元々「働きたい、動きたい!」という人なので、退院しても安静には出来ず、悪化させて再入院となりました。
話には聞いていたのですが、寝たきりになると一気に老け込み、痴呆も進みました。
息子には、昔、赤ちゃんの頃あやしてくれていた、優しいひいおばあちゃんの記憶はありません。
写真を見ても、今のひいおばあちゃんと一致しないと言います。
それでも、習っているバイオリンを持って行って聞いてもらったり、「こんな事があってん!」と報告をしたりしていました。
「他の方のご迷惑になるのでは?」施設の方々に尋ねましたら、施設の方々も暖かく子どもの演奏を受け入れて下さり、
「どんどん弾いてよ〜嬉しいね〜今度コンサートしてもらわなね!」
なんて言葉を返して下さって、おばあちゃんもなんだか嬉しそうで、こちらも嬉しくなりました。
ところが、この1年ほど痴呆が更に進んでしまい、反応はあるものの会話は出来ません。
そうなってくると、9歳の息子には戸惑いも大きく、会いに行っても、よそよそしい態度になりました。
そこに、
「こんにちわ〜」
と介護士さんが入って来てくれました。
ずっと話したかったんだよ〜。
いつもタイミングが合わなくてね〜。
バイオリンの僕やんね?
と明るくも落ち着いたトーンで話しかけてもらって、息子も顔が緩みました。
「〇〇さん、良かったね〜。孫とひ孫が来てくれたんやね〜。」
と話が弾んでいた時、ふと、ひいおばあちゃんが元気だった頃の話をしてくれました。
(介護士さん) 僕は、覚えてないんかなぁ?ひいおばあちゃんが元気だった頃の事。
(息子) うん。
(介護士さん) そりゃ、淋しいなぁ。ひいおばあちゃんはな、そりゃ話が面白く てな。毎日コントや(笑)おばあちゃんは、人楽しませるのが大好きやから、人が周りに集まってなぁ。けらけら笑っとったんよ。ツッコミ担当よ。
みんなが来る日は、オシャレして待っとったんよ。今日はエライお洒落しとるねぇ?
孫とひ孫が来るけ、ちとでも綺麗にせんと。顔が地味やけ、服の柄が映えるじゃろ!って。
君は、おばあちゃんの血繋いどる子や。ええ顔しとる。おばあちゃんにも、よう顔みせたってや。話さんでいい。顔見せてくれたら十分や。ほれ喜んどる。
(息子) ホント?
(介護士さん)(頷き) えらいスミマセン。長い事勝手に話して。ゆっくり話してって下さいね。
と席を離れられました。
息子は、ひいおばあちゃんが施設に入ってからの記憶しかありません。
帰省すると、真っ先にひいおばあちゃんに会いに行かな、と言うのは息子です。
でも実際会うと、そこに居るのに居ないような、少し怖いという様な感覚もあったんだと思います。
大人でも戸惑うのですから、当然ですね。
介護士さんは、本来入居者の為にお仕事をされています。
本当に頭が下がります。
仕事中にお喋りなんかしてと言われるかもしれないのに、わざわざ来て話してくれました。
元々お話好きな方だったかもしれません。
でも、その少しの時間で、エピソードを知る事で、家族はおばあちゃんの元気な姿を思い出す事が出来ました。
そして何より息子は、ひいおばあちゃんが怖い存在になっていっているんではなく、お話を聞いてくれていた頃のひいおばあちゃんとは少し変わったけど、ひいおばあちゃんのまんまなんだと感じられたと思います。
エピソードを聞いている間の息子の顔は、嬉しそうで、どこか誇らしげでした。
ステキなお話をして下さったあの介護士さんに感謝です。
ありがとうございました。
・このエピソードをお寄せいただいた方
性別:女性
年齢:30代
お住まい:大阪府大阪市
感謝を伝えたい方:介護士さん
エピソードをお寄せいただき、ありがとうございました!