自分自身が入院した時の出来事です。
結婚し、忙しく過ごす毎日で、入籍はしていましたが、結婚式はまだ行っておらず、あと一週間で挙式というタイミングでの出来事でした。
普段と変わらない生活をしている中、なぜか急に体調が悪くなりました。
もちろん、まだ避妊もしていたので、妊娠は考えていなかったのですが。
近くの病院に行くと、妊娠していることがわかりました。
5週目に入るころらしく、びっくりはしましたが、その時はとても嬉しくて、主人にもすぐに報告をしました。
しかし、一週間もすると体調がさらに悪化してきて、茶色い出血がつづき、妊娠の初期症状とは少し違う気がしたので、改めて最寄りの産婦人科へ行きました。
詳しく検査をしていただくことになり…。
すると、残念なことに、今回の妊娠は正常妊娠ではなく、子宮外妊娠であることが判明しました。
私の場合は、卵管に着床していて、このまま胎児が大きくなると、卵管が破裂してしまい、命の危険があると言われ、すぐに、手術するよう言われました。
自宅近くの産婦人科では、手術の設備が整っておらず、紹介された市民病院へ救急車で移動しました。
卵管の中で育ち始めた新しい命は、どんどん大きくなるので、すぐにでも手術をする必要があると説明されました。
午前中に行った産婦人科で、主人に事情を話し、入院に必要な着替えなどを入院先へ持ってきてもらい、午後には市民病院のベットの上にいました。
明日には、結婚式の衣装合わせの最終打ち合わせがあるのに…
結婚したばかりなのに…
でもあと数時間で全身麻酔の手術をしないといけない状態で、
わたしはどうなるんだろう?
みんなに迷惑をかけるのかな?
と不安な気持ちでいっぱいでした。
しばらくベットに横になっていると、看護師さんが、おへその掃除と爪を切るために病室に入ってきました。
もう少しで挙式ということもあり、爪には綺麗なネイルアートをしていました。
そのネイルを見た看護師さんから
「おめでとう」
と優しく言っていただきました。
それ以上を言うわけでもなく、ただにっこりと。
人によっては、この状況のおめでとうは、ほんとうに嫌味になるけれど、私の心の中を悟った看護師さんのひとことは、その時のわたしには、ほんとうに嬉しく、安心し、落ち着くことができました。
今から、手術をされて全身麻酔で子供はいなくなって、検査の結果では今後の、自然妊娠の見込みはかなり薄いとも言われていました。
これから先の結婚生活への不安や、せっかく授かった命なのに、自分のカラダのせいで産んであげることができないことに対しての絶望感と悲しさと自己嫌悪、そんな悲しい感情がたくさんがある中で、その看護師さんの「おめでとう」にはすごく救われました。
その日の午後には手術が開始され、通常の時間よりもかなり長く手術に時間がかかったそうです。
麻酔が効いていて朦朧としている状態で、手術室で目覚めた時に、お医者さんと看護師さんから
「頑張ったね。」
と声をかけていただいたのを、うっすら覚えています。
手術が済んでから家族ともいろんな話をしましたが、入院中夜になるとなかなか寝付けず、悲しさがこみ上げてくることもよくありました。
夜中になっても全く眠ることができずにいたら、産婦人科の婦長さんが来てくださり
「泣きたいだけ泣きなさい」
そう言ってベッドの横に座ってそばにいてくれました。
ご飯も食べることができず、毎日泣いてばかりの入院生活で挙式は、近づいてくるけれど、まったく前向きになれませんでした。
婦長さんもお医者さんも、毎日毎日様子を見に来てくださるために、いろんな楽しい話をしてくれました。
徐々に笑えるようになり、最後にはしっかり話をできるようになりました。
そして、私が悲しんでいる時に、主人も悲しんでいたことも、看護師さんから聞きました。
辛いのは、自分だけじゃないということを、何度も何度も私が納得するまで話をしてくださり、前向きになることができました。
そして、これは退院をする前に聞いた話で、私は最後の日まで教えてもらってはいなかったのですが(もちろん家族や主人は知っていたけれども)、手術の際に、可能な限り卵管を残してもらえるように頼んでいたようで、お医者さんはなんとか残すことができるように頑張って下さったそうです。
結果的には、残すことができ、完全で自然妊娠への道が絶たれたわけではなく、わずかな可能性が残せることになりました。
それを聞いて、涙が止まらずお医者さんとそばにいてくれた看護師さんに本当に感謝をしました。
その後も看護師さんから、
女の人は辛い思いをしても負けてはいけない。
前を向かなければいけない。
笑っていないといけない。
元気でないといけない。
長生きしないといけない。
太陽でないといけない。
そんな本当に前向きな話をたくさんたくさんしてもらいました。
おかげで結婚式でも、ひとつの命を失くした後だけれども、こころの中でしっかりと受け止めることができ、笑って過ごせることができたことをとても感謝しています。
挙式が終わった後に、通院のため改めて病院を訪れ、再度検査をしました。
朝のあいだじゅう、看護師長さんは外来に来てくださって、ずっと手を握っていてくれました。
「大丈夫だから。大丈夫だからね。」
と優しい声をかけてもらって、本当に安心したのを覚えています。
他の人から見ると、もっともっと重い病気の方がたくさんいる中で、私のような、病状は比較的軽い患者に対しても、寄り添って励まし続けてくれる姿が、本当に嬉しくて感謝しかありません。
病院自体は好きではないけれども、そこにいる携わるスタッフのひとりひとりが、患者さんに寄り添っているのが、入院中にすごく伝わりました。
大きな病院だと、もっと淡々とした事務的なものだと思っていたのに、温まる対応していただいたことが、これから先の自分の人生の中でも、すごく印象に残ることだと思います。
最終的には、自然妊娠を望むことはできないと結果が出ましたが、それまでのプロセスでとても有意義な時間を過ごすことができたので、自分の中でも納得することができました。
あのお医者さんと、ずっとそばにいてくれた婦長さんがいてくれたからこそ、今は素直に、自分自身の子供のいない生活を、受け入れることができていると思います。
どんなに忙しくても、耳を傾けてくれる優しいお医者さんと看護師長さんに本当に感謝しています。
・このエピソードをお寄せいただいた方
性別:女性
年齢:30代
お住まい:奈良県北葛城郡上牧町
感謝を伝えたい方:看護師さん
エピソードをお寄せいただき、ありがとうございました。