私は30歳、男で看護師をしています。
今回は同業である先輩看護師さんから受けた、嬉しい体験談をお話しさせていただきます。
私は現在、看護師8年目になります。
看護師の世界では中堅で、新人や2、3年目を教える立場にいます。
私が看護師を目指すきっかけになったのは、
将来は『人の役に立ち・人と関わり・人から頼られる仕事に就きたい』と考えていた小学校6年生の時に、
虫垂炎で入院した病院で出会った看護師さんに憧れてです。
まだ看護師という仕事が何か分からず、熱を測ったり、注射をしたりする仕事ぐらいしか思っていませんでしたが、私を含め入院している患者さん一人一人に優しく接し、患者さんから頼りにされる姿はとても輝いて見えました。
その時に私は看護師になろうと決めました。
小学校6年生時に決めた夢を叶え、看護師として働き始めた1年目。
看護師として働く中で避けては通れない、人が亡くなることと向き合う怖さを経験しました。
高校3年生の時、目の前で祖父を看取ったこともあり、自分にはその恐怖心はないものと思っていました。
しかし、いざ目の前で命が消えそうになっている時、何もできず、立ち尽くす自分がいました。
また同時に家族に何も声を掛けられない自分がいました。
私は何をしてあげればいいのか、何て声をかけてあげればいいのか。
そこから自問自答しながら仕事をする日々でした。
常日頃から患者さんと関わり、また家族とも関わり、お亡くなりになるそのときまで、自分は何ができるかを考えていました。
ある患者さんとのエピソードです。
その方は頭の病気で倒れ、その影響で呼吸状態も悪く、多くの合併症を併発し
自分の病院に看取りとして来られた方でした。
入院以来、患者さん・家族の思いを聞きながら、関わって行きました。
その患者さんは寝たきりで、起きると状態が悪くなり、命に係わる可能性もあるため、前院から起きて座ったことがない方でした。
ある日、起きたことのない患者さんがしきりに
『起きたい、起こせ、座らせろ』
と訴えてきました。
当時、私は2年目で1人では判断できずに先輩看護師に相談をしました。
先輩看護師は
『なぜ患者さんが起きたいのかしっかり聞くこと。起きた時のリスクをしっかり考えて本当に患者さんの訴えを聞くことが良いことなのか考えなさい』
と半ば突き返すような返事でした。
その時に私は
『なんでそんな冷たいのか。起こして何かあった時の責任が怖いのか』
と思いました。
その後も毎日のように患者さんは
『起こせ、起こせ!座らせろ!』
と訴え続けました。
理解力が乏しく、コミュニケーションを取るのがとても難しい患者さんの訴えを聞きながら、患者さんを起こして座らせた時のリスクをたくさん考え、勉強しました。
自分の中で考えがまとまり、先輩看護師に話をしました。
先輩看護師は
『その考えをまずは医師の先生と、看護師長・部長に話しましょう、私達だけでは決められないから』
と言い、話す機会を作ってくれました。
そして医師の先生・看護師長・部長と話し、家族に経緯を説明し、同意を取ることまで至りました。
いざ患者さんを起こし、座らせる日。
もしも何か起こったらどうしよう。
起こして座らせることで命を削ることになったらどうしようと言う不安の中、患者さんにベットサイドに座ってもらいました。
私が体を抱えベットサイド座った患者さん。
笑顔が溢れていました。
2分程で『しんどい』と言い横になりましたが
座った時に記念に写真を撮りました。
どうしても家族は立ち会えず、後日撮った写真を見てもらいました。
その時に家族さんが
『倒れてから笑顔を見たことなかった。本当に久しぶりに見た笑顔だ』
と泣いて喜んでくれました。
患者さんはそれ以降、起こせと訴えることはなくなりました。
それから1週間、ゆっくりと状態が悪くなり家族に見守られながら息を引き取りました。
その瞬間に私は立ち会うことが出来ました。
息を引き取る時、自然と何も話さず、何も気にせずその場にいることが出来ました。
患者さんを見送る時に家族さんに
『あの座った時の顔が忘れられません。あれがあったので素直に最後を受け止められました。あなたがいてくれて良かった』と言われました。
また座った時の写真を親戚に配ったと言っていただけました。
偶然にもその場には、始めに相談した先輩看護師も一緒にいました。
家族を見送り、病室を片付けをした後に、先輩看護師に声を掛けられました。
『前に言っていた、亡くなる患者さん・家族を目の前にして、何て声をかけたらいいのか。何をしてあげればいいのかって悩みは今日ので解決したんじゃない?』
と言われました。
先輩看護師は
『何も声をかけずとも、何もせずとも患者さん・家族からあなたがいて良かったと思われる関わりがそれまでに出来たらいいんじゃない?
亡くなるとかそうゆう瞬間に黙ってその場にいさせてもらえる、いて欲しいと思われる看護師になりなさい。』
と言われました。
何かしてあげたい、何か声をかけてあげなければと考えていたことは、自分が勝手に思っていたことなのだと分かりました。
自分が考えていたことは患者さんのためと思っていましたが、それはただ自分がしてあげたい
という気持ちだったのだと。
看護師として何かしなければ、何かしてあげたいと思い仕事をしていましたが、その先輩の言葉がとても心に響き、それからは日々の一つ一つの関わりを大事にするようになりました。
それは患者さんだけではなく、家族を含めて関わるスタッフも含めてです。
その中で患者さん・家族の思いを、またその人に関わるスタッフの思いを含めて関わる大切さを学びました。
看護師という仕事は特殊な仕事であり
心も体もとても疲れる仕事です。
しかし、それ以上に患者さん・ご家族からの感謝に助けられる素晴らしい仕事です。
悩んでいた時にすぐに答えを出すのではなく、自分で考えることを教えてくださった先輩看護師は、理想の看護師だと、8年目の今も思うとともに、自分もそんな先輩看護師になれたらなと日々考え、仕事をしています。
どの仕事でもそうですが、自分の中でやりがいを感じながらも、他者から認められ、憧られる立場、求められる立場になるのは嬉しいことであっても、とても難しいことです。
私はこの看護師という仕事に出会い、実際に働き、他の職業が経験できないことを経験させてもらっています。
特に人の最後の時に立ち会うということは看護師にしかなく、とても特殊な仕事です。
その看護師を目指すきっかけになったのは小学校6年生の時に出会った看護師さんであり、看護師となって悩んだ時に道しるべを作ってくれた先輩看護師さんがいたからこそ
辛く逃げ出したい日々を乗り越え、今も看護師を続けられていると思います。
これから看護師を目指す人、後輩として入ってくる看護師から、自分が経験したような経験を与えられるように、これからも努力していきたいと2人の看護師との関わりから学ぶことが出来ました。
この経験は看護師でして働くことだけでなく、今現在、家族ができ子育てをする中でも
とても大切な経験になっています。
心も体も疲れ、不規則で昔はきつい・汚いと言われた看護師にいう仕事に就こうという方はそうたくさんはいないと思いますが、
今回のエピソードを読んで、少しでも看護師という仕事の素晴らしさを知っていただくと共に、看護師を目指す方の力に、また看護師になりたいという人が1人でも増えたらと思います。
言葉足らずでなエピソードを最後まで読んでいただきありがとうございました。
・このエピソードをお寄せいただいた方
性別:男性
年齢:30代
お住まい:京都府京都市右京区
ご職業:看護師
エピソードをお寄せいただき、ありがとうございました!