その患者さんは、軽いアルツハイマーを患っていて、自宅の階段から転落して足を骨折、頭を打ってしまい、入院してきた患者さんでした。
幸い、大事には至らずに、簡単な検査入院という形で入院して来ました。
最初に書いたようにアルツハイマーを患っている患者さんのため、自分がどこで何をしているのか、うまく把握できていない感じのようでした。
私たち臨床検査技師は、その方の心電図や脳波を取る仕事をする役目でした。
その検査はあまり動いてはいけなくて、検査の間は静かにしていなくてはいけない検査です。
アルツハイマーのその患者さんは、それを説明しても、よくわかっていないようで、すぐに動いてしまったり、話してしまったりしていて私たちは困っていました。
そのため、しばらく、私たちとお話をして、落ち着かせようということになりました。
話して行くと、お化粧をしていくなかで、口紅を塗りたくてウズウズしている、ということが分かったので、口紅を塗らせてあげて、鏡を見せてあげると、ようやく落ち着いてきたのか、話を聞いてくれて検査に積極的になってくれました。
その際に、アルツハイマーを患っているのにも関わらず、その患者さんは、
「検査してくれてありがとう。ずっと待たせててごめんなさいね。」
とハキハキとお声がけしてくれました。
その患者さんのご家族は、口紅を塗りたいと言ったのは初めてで、しっかりと物事が分かっているのは久しぶりだと驚いた様子でした。
その後、無事に検査を終えることができました。
そして、私たちに対して、アルツハイマーの患者さんに変化を与えてくれてありがとうと、ご家族から感謝の言葉をたくさんいただきました。
その患者さんを通して、私たちはただ検査をするだけではなくて、その患者さんの全てを見て、病気を治したり、発見したりするためという目的を持って、検査をしているのだということを再確認することができました。
ただ、目の前の検査をすることが日常になってしまっていて、医療のやりがいは何かということを忘れていました。
その患者さんは、口紅を塗るという些細なことでしたが、生活の質であるQOLを上げることに、関わることができて、私も患者さんに感謝しています。
医療のやりがいとは、目の前のことを淡々とこなすことではなく、患者さんのためを思って仕事を正確にこなしていくことなのではないかと、思える体験でした。
・このエピソードをお寄せいただいた方
性別:女性
年齢:20代
ご職業:臨床検査技師
職場:臨床検査技科
エピソードをお寄せいただき、ありがとうございました!