あれは、私が薬剤師として調剤薬局で働き始めて半年ほど経った頃だったと思います。
クリニックの門前薬局だったのですが、少し離れたところに大学病院があり、その大学病院のお薬を、1ヶ月に1回、取りに来られる患者さんがいらっしゃいました。
年齢は60歳前後の女性でした。
体調も安定している様子で、いつも定期薬を取りに来られていたので、新人の私が担当することが多く、
「お変わりないですか?」
というような言葉をよくかけていました。
ある時、
「そういえば、こんな事お話しするのは恥ずかしいんだけど、ちょっと聞いてもいいかしら。便の色が最近黒っぽい気がするの。」
とお話しして下さいました。
私は、そのお話を聞いて、消化管出血を起こしている可能性があると思い、
「大した事はないかもしれないですが、まれに大きな病気のサインの事もあるので、念のため早めに主治医の先生に相談してみた方がいいと思いますよ。」
とお伝えしました。
その後、しばらく来局されない日が続き、心配していたところ、久しぶりに来局されました。
笑顔で私のところに来てくださり、
「ありがとう。あれから病院の先生に相談したらすぐに検査をしてくれて、腸にガンがあることがわかったの。手術してとってもらいました。命拾いをしました。本当にありがとう。」
と感謝の言葉を何度も仰ってくださいました。
新人の私は、まだ現場経験も乏しく、日々の勉強に追われていて業務をこなすのが精一杯だったので、仕事へのやりがいを感じる余裕もありませんでした。
そのような状況の中、患者さんから感謝の言葉を掛けていただけて、本当に嬉しかったのを今でも昨日の事のように思い出します。
その後も何度かその患者さんがお薬を取りに来られて、とてもお元気そうだったので、本当に良かったと思いました。
それから、半年くらいして私が他の薬局に異動になってしまったので、お会いすることは無くなってしまいましたが、ずっとお元気でいらっしゃる事を心から願っています。
その後、長く仕事を続けていく上で、仕事を辞めたくなったり、悩んだりすることも沢山ありましたが、その患者さんからの感謝の言葉と笑顔が忘れられず、勇気付けられて仕事を続けることが出来ているのだと思います。
これからもそんな風に患者さんの役に立てる仕事をしていきたいと思います。
そのためには、病院の先生の前では話せないようなことも気軽に話せる環境を作って、患者さんの悩みに答えられるよう、経験を積んで研鑽していきたいと思います。
・このエピソードをお寄せいただいた方
性別:女性
年齢:40代
お住まい:神奈川県
職種:薬剤師
勤務施設:調剤薬局
薬剤師としての経験年数:15年
エピソードをお寄せいただき、ありがとうございました!